シニア向けビジネスは、企業にとってこれまで以上に重要な課題になってきています。
現在取り組んでいるシニア向けビジネスで思うような成果が上がらない企業様、これから取り組もうと考えている企業様に向けて、成功事例と失敗事例の両面から成功に導くポイントを解説します。
1.シニアビジネスとは
シニアを対象にした各種サービスや商品開発を行い、ビジネスを展開していくことです。
高齢者向けの市場規模は2025年に101.3兆円になると予想されており、今後ますます大きくなっていくシニア市場に向けてビジネスを展開していくことは、企業にとって重要な課題です。
画像引用元:総務省統計局
以前からこの巨大市場を制覇するべく、シニア向けのビジネス戦略が謳われてきましたが、成功例を挙げるとなるとそう多くはありません。
なぜでしょうか?
それは「シニア」を一括りにしてビジネスを考えてしまうからです。
また、昔ながらの「シニア」のイメージをアップデートせずにマーケティングを行なっているからです。
それでは、現在の「シニア」はどのようになっているのか、以下で詳しく解説します。
2.シニアの特徴
「シニア」は一括りに出来ない
日本の総人口は、2020年12月時点で1億2557万人。
そのうち65歳以上の人口は3,621万人で、総人口に占める割合は28.8%。
2025年には総人口の30.3%になると予測されており、3人に一人が65歳以上になります。
(参考:内閣府 高齢社会白書 )
画像引用元:
【2021年】令和3年最初の人口推移
この大きなシニア 層の中には、実に様々な状態の方が含まれていることを見逃がしてはいけません。
シニアビジネスを展開する際は、年齢だけでなく、経済状態や健康状態などでシニアを分類し、自社のサービスや商品はどの層をターゲットに定めるのかが大きポイントになります。
ソーシャルサービスでは、シニアの身体能力や生活環境およびシニア市場の攻略にあたって必要となるマーケティングを行い、「シニア層」を以下の4つに分類しています。
自社のサービスや商品は、どの層のシニアを対象にするのかを明確にし、ターゲット層のシニアの特徴をしっかりと把握することが重要です。
※詳しくはこちらの記事でも解説しています。
引用元:
ソーシャルサービス「アクティブシニアとは?ペルソナ設定とシニアマーケティング 成功の鍵」
現在のシニアは昔の「高齢者」イメージとは異なる
ネットもスマホも使いこなす
現在のシニアの特徴を把握する上で欠かせないポイントは、シニア世代のインターネット利用率です。
シニアのインターネット利用率は年々増え続け、
現在(2021年5月時点)ではシニアの90%以上がインターネットを利用しています。
画像引用元:総務省 令和元年通信利用動向調査
すでに、インターネットは若者だけが利用するものではなく、高齢者を含めた全ての年代が利用するツールとなっています。
画像引用元:MMD研究所
また、シニアのスマートフォン利用率についての調査結果では、
2020年時点では携帯電話所持者の77%がスマートフォンを利用しており、6年間で半数以上がフューチャーフォン(ガラケー)からスマートフォンへ移行していることがわかりました。
現在のシニア層は少し前にイメージされていた「デジタルに弱い」「ネットリテラシーが低い」という世代ではなく、
インターネットもスマートフォンも日常的に利用している世代なのです。
LINEを連絡手段として利用している
インターネットの利用目的・用途について年代別に調査した結果を見ると、平成27年の調査結果に比べて平成30年の調査結果では、
- ソーシャルネットワーキングや動画共有サイトの利用
- 無料通話アプリやボイスチャットの利用
のふたつが大きく上昇していることがわかります。
画像引用元:総務省 平成27年及び30年通信利用動向調査
また、株式会社インテージの調査によると、
SNSで最も利用されているのは「LINE」です。家族や孫などと連絡を取る手段として浸透しており、シニア層にとって欠かせない連絡ツールになっています。
画像引用元:株式会社インテージ
いまどきシニアのネット利用実態と価値観
このことからわかるように、現在のシニアはひと昔前のいわゆる高齢者とは、ライフスタイルが全く異なります。そのため、
シニアを一括りにし、一般的な高齢者のイメージで捉えてしまうとシニアビジネスで失敗する大きな要因になってしまいます。
3.シニアビジネスの成功事例
それでは、現在のシニア層に対してどんなビジネスを展開していけば良いのでしょうか。
そのヒントとなる成功事例をご紹介します。
若者向け商品のシニア化
◇売り上げの50%がシニアの購入!健康志向のチョコレート
菓子業界において、売り上げナンバーワンのカテゴリーは「チョコレート」です。
お菓子といえば、子供や若者が買うものというイメージに反して、チョコレート分野の売り上げを支えているのは、なんとシニア層。
「健康」や「プレミアム」を切り口にすることでシニア層の購入が増え、コロナ禍でも売上を伸ばしているのです。
20年程前、チョコレート業界の売上は低迷状態でした。そこに、明治がポリフェノール効果を打ち出した「チョコレート効果」を発売したところ、チョコレートの食習慣に大きな影響を与え、特にシニアの健康志向にヒットして売上が伸びていきました。
今では、健康志向チョコレートはその地位を不動のものにし、高カカオだけでなく、乳酸菌、G A B A、糖質コントロールなど実にさまざまな成分を含むチョコレートが販売されています。
コロナ禍の在宅時間増加や、より一層の健康志向も後押しとなり、健康志向チョコレートの需要は今後も伸びていくと考えられます。
既存商品でもコンセプトを変えることで、購入者の層が変わってくる成功事例です。
自社商品の売上が伸び悩んでいる場合などは、
新規分野に挑戦するのではなく、既存商品のターゲット変更をすることが成功のポイントになってきます。
シニア に特化した悩みを解決するコンセプトで劇的に発売・定着した化粧品
これまで、大々的にCMや広告を打つ化粧品ブランドは、若い世代向けのものが一般的でした。ところが、2015年に資生堂が発売した「プリオール」は、50代から70代女性をターゲットに「大人の七難すんなり解決」と言うキャッチコピーを世間に知らしめ、ブランド立ち上げ以降、シニア 女性に高い支持を得ています。
画像引用元:
資生堂PRIOR
50代になると肌や髪の質が変化するため、化粧品を見直す女性が多いことに資生堂は着目し、50代以上の女性をターゲットにした化粧品ブランドを立ち上げました。
ターゲットとなる世代の女性にアンケートやモニターを行うことで、顧客満足度の高い商品開発に成功しています。
ブランドの発表時には、当時のターゲット層に合わせて折り込みチラシとテレビCMを活用。各媒体でキャッチコピーを多用することで、シニアの印象に残りやすいよう工夫し、今では確固たるブランド地位を獲得しています。
メイクを楽しむ若い世代とは異なり、
シニア 女性のネガティブな肌の悩みは表に出しづらいと言う印象を覆し、シニアに特化した商品を開発することが成功のポイントと言えます。
孫市場の展開
シニア特有の特徴として、家族や孫への出費が多いことが挙げられます。
ソニー生命が実施した「シニアの生活意識調査2020」では、
1年間に平均112,715円を孫に使ったという結果が出ました。出費の内訳は以下の通りです。
画像引用元:ソニー生命
シニアの生活意識調査2020
また、同調査で孫がいるシニア(320名)に、孫とどのようなことをしたいかを聞いたところ、
1位「外食」(55.6%)
2位「旅行」(49.7%)
3位「会話」(46.9%)
4位「公園で遊ぶ」(36.3%)
5位「散歩」(27.2%)
と言う結果になりました。
この結果を踏まえ、孫市場に着目したシニアビジネスの成功事例をご紹介します。
今や祖父母の資金提供が当たり前!ランドセルの早期予約購入の定番化
これまで、新小学生のランドセルは入学の前年秋頃から購入するのが主でしたが、数量限定の人気モデルが登場した数年前から、人気モデルを獲得するため、親が前年の夏前に動き出す傾向になりました。
そこに目をつけたメーカーや小売業は夏前にランドセル商戦を開始し、ランドセルの購入費用を提供する祖父母も巻き込んで、早期の予約販売(受注生産)を実施しました。今ではこの販売方法が主流になり、ゴールデンウィークには孫・親・祖父母の3世代がデパートのランドセル売り場に訪れ、孫が選んだ人気モデル獲得のために行列をなしています。
孫市場に目をつけ、新しい販売方式を生み出したメーカー・小売店の成功例です。
祖父母も孫と旅行したい!老舗ホテルの三世代向け設備改修
国内有数の温泉地にある創業70年の老舗ホテルは部屋数600、収容人数3,000人の大規模ホテルですが、高度成長期以降収益が悪化し、2001年には137億円の負債を抱える程に落ち込みました。再生にあたって、同ホテルの運営会社はターゲットの変更を行い、海外観光客から国内の子供連れ3世代をメインとし、大浴場の改修・ビュッフェレストランへの変更・屋外プールを新設など、子供からシニアまで一日楽しく過ごせる施設を用意。その結果、稼働率は100%まで回復し、顧客満足度も高く、リピーター客の多い人気ホテルとなりました。
現在では、このホテルと同様に「三世代」をコンセプトにした宿泊施設が多数あり、宿泊予約のポータルサイトでも「三世代旅行」をテーマにした宿やプランが増加しています。
例えば、それぞれの家庭を尊重できるメゾネット式の広い部屋、子どもの体験学習プラン付き、部屋の中に半露天風呂が付いているなど、思い出に残るようなプランを各施設で提供しています。
これらは、
シニアの孫と過ごしたい気持ちに着目し、三世代向けの戦略に切り替えることで成功した事例です。
このように、
「孫消費」を意識した戦略を立てることもシニアビジネス成功のポイントの1つです。
4.シニアビジネスの失敗事例
シニアビジネスを成功させるために、ここでは敢えて失敗事例もご紹介します。
失敗した原因を解明していけば、それが成功に導く鍵となります。
中高年向けの雑誌
中高年をターゲットにした雑誌は、2000年頃から急増し、これまでに延べ100誌以上が世に出ていると言われています。ところが、この分野で雑誌ビジネスの成功の目安と言われる10万部を超えているのは、「いきいき」(現在の名称はハルメク)」と「サライ」程度しかありません。大半の後発雑誌が、先行するこの二つを真似して似たような内容にするのですが、結局及びません。その結果、大半が発行開始から二年以内に撤退を余儀なくされているのが現実です。
引用元:村田裕之の団塊・シニアビジネス・高齢社会の未来が学べるブログ
この現状を受け、60代をターゲットにしたファッション誌を調べてみると、月刊で刊行しているのは
「素敵なあの人」1誌のみでした。
画像引用元:
宝島社「素敵なあの人」
また、コロナ渦でさらに売り上げを伸ばしている雑誌「ハルメク」では、雑誌リニューアル時のポイントとした点を以下のように語っています。
読者の方を
「シニア女性」としてではなく「大人の女性」と再定義しました。
〝「シニアが関心のあることってなんだろう」から出発してしまうと、健康とか年金とかお決まりのテーマしか出てこなくなってしまう。
でも「大人の女性が関心のあることってなんだろう」からスタートすれば、ファッション、美容、旅、料理、インテリアなど、さまざまに切り口が広がります。〟
この例から逆説的に考えると、
失敗してしまう要因はターゲットをこちらの都合で勝手に「シニア 」という型にはめてしまうことに他なりません。
例えば「シニアは和食が好き」と思われがちですが、現在の60代は若い時からファーストフードが身近に存在しているので、和食より欧米的な食事を好む人も多いのです。
「シニア 向けビジネス」であっても、
シニア と言う昔ながらの固定観念を払拭してマーケティングすることが失敗しないポイントとなります。
中高年向けの会員サービス
ある会社が立ち上げた中高年ターゲットの健康サロンには、フィットネス、レストラン、カルチャースクールと何でもあるのですが、他のサロンにない「これ」といったサービスがないために苦戦し、3年で撤退。
また、別のある中高年向け会員クラブは、ラジオとのタイアップを差異化したものの、クラブの活動の中心となる強力な売りとならず、やはり数年後に撤退しました。
引用元:村田裕之の団塊・シニアビジネス・高齢社会の未来が学べるブログ
失敗した要因は、
サービス内容が多岐に渡り過ぎたため、ターゲットがぼやけ、競合商品との差別化が不明瞭になったことです。
シニアビジネスは市場が大きいだけに、参入しようと考える企業も多いです。
他企業と差別化を図ることは勝ち抜くために必須条件ですが、その
差異ポイントとターゲットを明確かつわかりやすくすることが、シニア ビジネスにとっては大変重要なのです。
5.生活環境の変化を把握することが重要
いくつか事例をご紹介しましたが、前述した通り、経済状態や健康状態によってシニアには様々な段階があります。今、自社商品のターゲットになっている方でも5年も経過すると次の段階に入り、ターゲットから外れていく可能性が大いにあります。
また、このコロナ禍で人々のライフスタイルは大きく変化しました。
そのため、シニア向けビジネスで売上を伸ばし続けることは難しいのが現状です。
シニア層のライフスタイルの変化を迅速に捉え、ビジネスをこまめに見直すことがシニアビジネス成功の秘訣と言えるでしょう。
6.まとめ
成功事例と失敗事例から学べるシニアビジネスの成功ポイント、そしてライフスタイルの変化を把握する重要性についてお伝えさせていただきました。
これらのポイントを貴社のシニアビジネスにお役立ていただければ嬉しいです。